もらうって?

 最近のよく聞く言い回しで一番いやなのが「勇気をもらった。」「元気をもらった。」

 元々、勇気も元気も「出す」ものでもらうもんじゃありません。
 そんな細かいこと言ったらただの口うるさいオヤジだけど、でも言い回しの問題だけじゃないと思ってる。

 音楽を聴いたり映画や舞台を見たりして感じたことを自分なりに消化し(消化できなくてもその感動をどう自分の中で片付けていくかの葛藤は続く)、感動を自分の中で形作る作業はとても大事なことで、そうすることで音楽や舞台や映像を発信する他人と自分との関係を作り上げることができる。

 発信する側と受け取る側との関係を双方で作り上げることでどちらも同じように(発信者側も)先に進めるのだと思う。

 単に「もらう」んじゃ発信者はただの道具だ。「あなたから元気をもらいました」といえば、さも発信者の表現を受け止めたかのようだけど、そうじゃなくて単に元気を出すきっかけにあなたを使いました、と言ってるようなものだ。

 表現なんて「もらったり」「あげたり」はできない。大体、他人のやっている表現のことなんかわかるわけもない。本人だって100%わかってやってるわけではない。

 人の表現を見て、聴いて、それをどう自分の中でカタをつけていくのか、そうすることで他人との関係がちゃんとできていくと思ってる。他人の表現もちゃんと受け止めることができる。ちゃんと受けとめる人がいれば表現する側だって先に進むことができる。

 音楽でも何でも「道具」として使うことはできるが、せっかく自分じゃない他人が素晴らしいものを提示してくれてるんだから、ただの「道具」にしてしまうのは本当にもったいないと思う。

 配信や携帯プレイヤー等、音楽の聴かれ方も変わってきたけど、そのせいかどうかはわからないが、以前よりずっと音楽=「道具」として聴かれることが多くなって来たように思える。

 そのことと「勇気をもらった」「元気をもらった」というへんてこな日本語が蔓延してることとは密接な関係があるように思えるんだが、どうでしょう?

“もらうって?” への6件の返信

  1. はじめまして。
    ご指摘は正鵠を得ていると思いました。

    特にネットの普及がきっかけとなり、中途半端な批評装置がリスナー各自の中に埋め込まれているような幻想が生まれた気がします。

    自分で探すこと、自分で考えること、自分で真摯に消化すること、そこを放棄して、検索で見つけた「~の評価」をコピペして羅列するだけの「趣味の良さ」。そんな薄っぺらいものを競いあう様を、私は浅ましいと思います。そしてその浅ましさは、勇気や元気を「もらう」という気持ちの悪い表現と、同根であるように思うのです。

    私はサッカーやオリンピックを巡るムード全般が嫌いなのですが、特にあの「感動をくれてありがとう」という寒気のする多数派ムードが大嫌いです。そして、多数派にとっての音楽は、まさにご指摘の通り「道具」でしかないのだろうと思います。

  2.  初めまして。
     薄っぺらい「感動」や「勇気」や「元気」は自分の中で熟成されることなくその場の道具として使い捨てられるだけみたいな気がするんですよね。

     携帯で写真を撮るのも一緒。記録はしたいけどその記録を自分の中で発酵することはしない、あくまでその場で記録したい欲求を満たすためのみの記録であることと、変な言い回しは同じ根があると思ってます。

  3. もともと音楽を含む芸術には、受け取る側が想像するべき余白が多くあります。
    正しい聞き方などなく、むしろ勘違いや過剰な解釈こそが芸術を豊かにしてきた要因だと思います。(個人的には芸術という響きに、ある種の選民意識を感じるためあまり好きではないのですが創作活動を総称して使います)

    その点、色々なところで指摘されている通り、ネットの海に広がったいくつもの正論が芸術に必要な想像するというプロセスを省いているように思えます。
    石橋さんのおっしゃる点はその通りだと思います。

    音楽を好き、嫌いなどの自分の感情、感覚すらを他人に委ねてしまう脆弱な感性の低さを感じます。歴史をなぞり、正しいと疑いもなく信じこんでしまう脆弱な感性。

    それを踏まえた上で今の自分のような若い世代に必要なのは、感情、感覚を自分自身の元に返すための手ほどきではないかと思います。

    それはもっと突っ込んで言うなら情報を与えるのではなく、限定していくという試み。情報の海にいくつかの流路を作り、自分の肌で音楽を体験していけるような場をつくること。

    音楽が個人で把握できる量をはるかに超えた今、音楽を紹介する立場(そんな立場があるのかわかりませんが)に求められる大切な性質ではないかと思うのです。
    その点で今回のような投げかけは非常に有意義なものだと感じました。

    えらそうに書いておきながら正直、ドキッとしてしまった自分がいます。

    ありがとうございました。

  4. マヒトさん、返事遅れてすみません。

    そんなに大げさなことを書いたつもりはなかったんですがなんか自分で考えることをしないで、他人に全てをまかせてしまってるようで、聞いててへこむんですよね。

  5. 石橋くん、体の調子はどうですか?
    嫌な言い回しについて、全く同感です。
    簡単にいって「商品化」のように思うんだけど
    どうでしょうか。

  6. jiroさん、こんにちは、またまた返事遅れてすみません。

    商品化かー、そうね、買ってしまえば自分のものだしね。「もらった」って言えばかっこいいけど、簡単に言えば「買った」ものを「使いました」ってだけだもんね。

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