銀河鉄道の夜とイーハトーブ乱入記

 アニメ「銀河鉄道の夜」を見る。
 元々アニメは苦手。理由は後述するとして、これを見たのはいくつか理由がある。


 理由の一つは監督の杉井ギサブロー氏が(まだお会いしてはいないが)身近に登場したこと。
 細馬さんが監督の新作に協力することになったと言う話も聞いた。

 杉井ギサブロー氏と言えば「悟空の大冒険」なのだ、個人的には。

 子供の頃に毎回見ていたこのアニメの最終回を見逃したことは未だに残念でくやしくてならない。だから未だに結末も知らないんだわ。

 もう一つの理由はますむら・ひろし氏の漫画が元になっていること。

 実はこのことが逆にこの映画の存在が気になっていながら今までちゃんと見ていなかった理由でもあるのだ。

 猫が主人公。う〜ん、どうなんだろう、これで宮沢賢治の世界が描けるのだろうか?そういう気がしていてなかなか手が伸びなかった。

 しかもアニメ全般に言えることだけど、登場する人物の表情の乏しさがどうにも我慢できず、あらゆるアニメを敬遠していた。
 
 静止画である漫画ならばあれだけ豊かな表情になるのに、どうして動いてしまうとああも中途半端な表情しか生み出せないのか、といつも思う。

 そういう思いもあっておそるおそる見ると、登場人物が猫で大正解だった。

 元々表情の乏しい猫の顔をうまく生かしきってなんとも深みのある表情が随所に現れる。これほど複雑な表情が一度に表れるアニメは見たことがないかもしれない。

 とても静かでいい映画だった。

 それで調べてみるとやはり猫を主人公にすることでいろんな反対があり、遺族である宮沢賢治の弟さんとのますむら氏との交渉の過程がますむら氏の本「イーハトーブ乱入記」に詳しく書かれているとのこと。

 誰もが知っている、しかも日本に住んでいる人間ならば意識せずとも皆影響を受けている屈指の名作をカバーする苦労、というのをある程度味わったと思っているのでその本も読みたくなり取り寄せてみた。

 後半は「銀河鉄道の夜」の謎解きが殆どだが、ますむら氏の幼少期からデザイナーを目指して上京し漫画家になるまでの個人史と宮沢賢治の諸作品を重ねた前半は読み応えがあるし、一番読みたかった遺族との交渉の部分でも、ますむら氏のものを作るその真摯な姿勢に心打たれる。

 猫を主人公にしたことも”ますむら・ひろし=猫”といった単純な発想からではないこともわかった。「銀河鉄道の夜」に対する畏敬の念と作品世界をどこまでも忠実に再現しようとする意志の結果であったのだ。

 しかもますむら・ひろしの諸作品の「猫」が水俣病の実験で苦しむ猫の姿が根っこにあることを知ってびっくりした。

 とにかく真摯に手を抜かずやれば結果は出てくるのだ、と思う。何を結果とするかの問題でもあるのだけど。

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